Like a notebook

イニシャルHの研究

道半ばの読書記録たち①

途中までは読んでいるけど、最後までは読み切っていない本の備忘録。こういうのをかいておくと、後から便利。それだけの話。

 

アパレル興亡(黒木亮, 2020, 岩波書店)

本当にありそうなアパレルメーカーの歴史を記した小説、という体をとっているが、その実はほとんど日本のファッション産業の歴史本という感じ。ノンフィクションとか伝記に近い体裁の小説であって、たぶん主人公やその周辺にも元ネタはあるのだろうが、先にそこを読んじゃうと興ざめかと思ってまだ調べていない。普段から経済ネタであーだこーだ喋るのが好きな僕はすごく面白いと思って読み進めているのだけれども、「なんかファッションをテーマにした小説でいい本ないですか?」と聞かれたときにお勧めするには少し人を選びそう。

天才はあきらめた(山里良太, 朝日文庫, 2018)

手に取ったきっかけはよく覚えていない。学生のころに住んでいた例の学生寮テラスハウスが流行していたころ、副音声での切れ味鋭い言葉に人気が集まっていた。そういうなつかしさのせいかもしれない。

テレビに出たといっても、そこだけがゴールではないほどの強い意欲のある人、あるいはもっと先にいける才能を持てる人にとっては、その先にたどりつけないことがとにかく苦しいようだ。僕にはM-1に出たことだけでも、とても果てしないことのように感じるのに、それだけでは満足できないらしい。とにかく「もっと先に行きたい(行けるはずなのにいけないからもどかしい、悔しい)」みたいな感情が強く出ていて、書籍という他人事で体験できる距離感であれば、どのエピソードも「わかるわかる」くらいで落ち着いてみていられる。だけど、自分の目の前や隣で、こんな苦しみ方をしている人がいたら、僕はどんな言葉をかけてあげればいいのだろうか、と凄く不安になる。

とはいえ、人生というのは大体において解決策やある程度の結論はありきたりなものになりがちなのに、そこに至るまでの苦しみ方は百人いれば百通りあるのだなとも思わされた。僕も次元は低いが、似たような悩みを抱えたときもあったので。そういう、ちょっと残酷だけど、だけど安全である程度適切な、第三者としての共感というものの一つ一つが、苦しみを和らげるのだろう、とは思う。

 

近代建築そもそも講義(藤森照信・大和ハウス工業総合技術研究所, 新潮社, 2019)

日本の(というか東京の)近代化にあたっての課題としてまず出てきたことが、「下水をどうするか」だった、というくだりをかろうじて読み切ったぐらい。これは結構面白そう。木の排水管は感染症対策の点でよろしくない、というところからはじまり、下水は早くに整備されたけど上水道までとなると、以外と時間がかかっている、みたいな話とか。全部の建物が防火/耐火になればそりゃいいけど、とりあえず延焼を食い止められるように、特定の街区だけをまず構造変えるようにスクラップビルドしましょう、みたいなところとかかなり面白かった。ちょうど建築基準法で防火・準防火地域とかやってたのもあるけど。読み進めたら建築基準法とか都市計画法の色々な規定がなんであるのか、とかもわかるのかなー。楽しみ。

 

マクベス(シェイクスピア著・安西哲雄訳, 光文社古典新訳文庫, 2008)

岩波出し福田恒存っていう名前からして難しそうなのでこっちにした。この前ハムレット読みはじめたら普通に読めそうなくらいわかりやすかったけども。まぁ文字も大きいし、これでいいのだ。僕は光文社古典新訳文庫が結構好きなのだ。有名すぎて特に語ることのほどもないと思うが、ようやくこれを読めたから、次はメタルマクベスとかいうのを見てみたい。マクベス夫人が夫にキレるあのくだり、序盤に出てくるくせに人生の真理を突きすぎてて辛い。


人生の花と思っていた王冠を欲しがりながら、臆病者で生きていくのですか?『やる』と言ったとたんに『やらない』と言い出して、魚は欲しいが足をぬらしたくない、ことわざにある愚かな猫と同じね」

 

はい。有名な作品なので、読んでる最中は(あれ、これってあのドラマの元ネタなのかな……)とか色々感じたと思うんですけど、ちょっと今思い出せない。

なにはともあれ、この物語の全体を貫いてる覇道政治と王道政治の循環と言いますか、後者から前者への変遷は内省的だったり社会文脈的に起こされたりするわけですが、そういうのを感じるにつけても、「正義の反対は悪ではなくて、別の形の正義なんじゃよ」っていうパワポケ7のあくの博士の名言が染みるわけです。

 

あとはクドカンの子育ての本とか、100分de名著の「高慢と偏見」の解説とか読んでます。どっちもめちゃくちゃおもしろいんだよなー。おすすめです。あとあれか、重版未定。